最近、長野県の山の上にある、らいてうの家を訪問した。凡庸な私は還暦を迎える頃にやっと、結婚制度が女性にとって過酷なのであることに気がついたのだけれど、それを25歳の時に見通していたのだから平塚明は天才だねと、思った。
まがりなりにもやっとフェミニストになった私がその時には既に人生を60年も生きていたのだから、この世界にフェミニストは少ないはずだわと、思った。
フェミニストという言葉が人々の心の中で何のことか十分に理解されないことも、それは仕方がないのだと、思った。

明治元年生まれのフェミニスト清水紫琴のこと、息子が治安維持法違反で逮捕される時に「世の中はそう簡単に変わるもんじゃない」との言葉を息子に伝えたと、息子さんが書いておられた。数年前、名大のジェンダー・リサーチ・ライブラリーの一室で開かれていたミーティングでたまたま聞いた水田珠枝さんの言葉も「そんなに簡単に変わるもんじゃない」だった。
『そんなに簡単に変わるもんじゃない』
本当にその通りだった。2022年6月アメリカの最高裁判所は、中絶を禁止する法律を合憲であると判示した。150年ほど前、イギリスでサフラジェットたちが、女性参政権を求めて騒ぎを起こし牢屋にぶち込まれる戦法をとっていた時、その監獄で「男たちが作った法律のために私たちはここにいる」と語る女性囚人たちに出会って、女性のいない議会で法律が作られることの過酷さを身にしみて改めて知ることになった。その時代からどれほど変わったと言えるのか。相変わらず男性たちの支配が続いているではないか。
てにておラジオの「すみこと洋子の女の人生劇場」でジョセフ・エサティエさんをゲストに話し合った時に、「今、人類は、歴史の曲がりかどにきている。この危機を女性の参加なしに乗り切ることはできないのだ。だから、各国で女性議員を増やす運動が起こっている。」との認識を語り合った。日本でもパリテ運動が小さいながらもある。先輩たちが「そう簡単に変わるもんじゃない」と実感されているのだけれど、人類が滅びるのと私たち人類が変わるのとどちらが早いかの競争になりつつあるような時代になっている、と思う。
だから、女性たちのエネルギーを、私自身はもう歳をとって古くなってきているけれど、私は女性たちのエネルギーを励ましたいと思う。
あなたがより良い社会を求める男性なら、謙虚に女性に学んで自己変革をする、手を取り合う、それが人類の未来にならないなら、未来はないのだ。

凡庸な私 2022年7月